???特に強い印象を残すのは、「田辺のつる」(1980年)だ。老いて、気持ちが少女時代に戻ってしまった82歳の老女「田辺つる」を、高野はかわいらしいおかっぱ頭の少女の姿で描いてみせる。孫の部屋から追い出され、ドアの向こうから「こわいのー あけてー」と舌足らずな調子で許しを乞ううち、突然「あなた はやまったことしないでください 私達どうしたらいいんですか」「あけてください!」と不穏なセリフを放つ、つる。このシーンには閉じられたドアとセリフだけでつるの姿は描かれてはおらず、読者の頭には82年という重みを持った老女の存在が、ふいに生々しく浮かび上がる。
???意外な場面を意外なアングルから切り取った独特の構図は、初期作品から見ることができる。人物などの絵柄は少女漫画風に細かく描きこまれたものと、少ない線ですっきりと描かれたものとが混在しており、作品ごとに印象は大きく異なる。高野作品のスタイルが確立される前の試行錯誤の様子がわかる、貴重な短編集だ。(門倉紫麻)
???河口にほど近く、広く、ゆっくりと澱む河。セイタカアワダチソウが茂るその河原で、いじめられっこの山田は、腐りゆく死体を発見する。「自分が生きてるのか死んでるのかいつもわからないでいるけど/この死体をみると勇気が出るんだ」。過食しては吐く行為を繰り返すモデルのこずえもまた、この死体を愛していた。ふたりは、いつも率直で、「かわいい」ハルナにだけは心を許している。山田を執拗にいじめ抜くハルナの恋人、一方通行の好意を山田に寄せる少女、父親のわからない子どもを妊娠するハルナの友人。それぞれに重い状況を抱えた高校生たちがからみ合いながら物語は進行する。そして、新たな死体が、ひとつ生まれる。
???本書は、93年から94年にかけて雑誌「CUTiE」で連載され、94年6 月に単行本化されたものの愛蔵版である。発表当時から多くの若者の心をとらえ、何年経ってもその評価が揺らぐことはなく、新たな読者を獲得し続けている。もちろん「若者」であっても、共感できる人もいれば、できない人もいるはずだ。
???だがはっきりと言えるのは、本書が「読み物」としての興奮を存分に読者に与えてくれるものだということ。痛ましく、凄まじいこの物語に、きっちりと「おとしまえ」をつけて描き上げることのできる著者の圧倒的な力量には、誰もが魅せられるはずだ。(門倉紫麻)